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クリスマス・イヴ

今日はクリスマス・イヴ。
俺はシャワーを浴び、ブルガリのフレグランスを首筋に適量付ける。ほのかな麝香の香りが体中を包む。べっ甲で出来たクシを持ち、髪形を整える。一本たりとも髪の毛の乱れは許されない。
外へでると、街中にクリスマスのムードが溢れている。恋人達は微笑み合い、まるでドラマの主人公気取りだ。
俺はシガーケースから、マルボロを取り出し、ジッポのライターで火をつける。左手に巻かれたフランク・ミューラーの時計は19時を指していた。まもなく彼女が現れる頃だろう。
「おまたせ」
シャネルのコートに包まれた彼女は少しはにかみながらそう言った。
「待った?」
「待ってないよ」
そんなありきたりな会話も今日は悪くはない。
俺はタバコを消し、彼女の手を取り歩き出す。
「連れて行きたい店があるんだ」
「ふぅーん。どこ?」
「だいぶ前に一度連れて行かれてね、俺が社会人になったら必ず行こうと思ってた店なんだ」
「へぇー。それは楽しみ」
街をすこし外れたところにその店はあった。外観は何も変わっていない。あの頃と同じだ。俺は少し緊張気味に店に入る。
料理の味について特に言うのはよそう。
本当においしい料理なんかに言葉はいらない。
店を出て、しばらくしたら後ろから声をかけられた。
「よかったー間に合って。。お客さん、忘れ物ですよ!」
オレンジのエプロンを身に着けた、吉野家川越街道成増店の店員が財布を届けてくれた。
今日はクリスマス・イヴ。

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